ロッド・スタイガーがナポレオンを演じた「ワーテルロー」鑑賞

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映画「ワーテルロー」、鑑賞。

1970年のイタリア、ソ連合作。
監督はソ連のセルゲイ・ボンダルチューク
製作はイタリアのディノ・デ・ラウレンティス
音楽もイタリアのニーノ・ロータ


ナポレオン一世がライプツィヒの戦いで敗戦し、エルバ島に追放され、脱出。
ワーテルローの戦いで敗戦する迄、いわゆる「百日天下」を描いている。

ワーテルローの戦いとは1815年6月12日~18日の7日間、今のベルギー、ワーテルロー近郊で行われたフランス軍とイギリス、オランダ連合軍及びプロイセン軍での会戦。



ロッド・スタイガーがナポレオン一世役。
「キング ・オブ ・キングス」のナポレオンと違い終始、敗戦の焦燥感が漂ってました。

ちなみにこの映画で作戦途中に眼鏡かけるの(老眼鏡?)ナポレオンだけなんだが、他にも中年以上の人物いっぱい出てくるのに、ナポレオンだけ老いた悲壮感を演出していた。

ロッド・スタイガーのナポレオンはクリスチャン・クラヴィエより更に太った丸顔で、その親しみやすい容貌はフランスの国民的オヤジな雰囲気が欲しかったのだろうか?

ナポレオンがエルバ島から脱出し、パリ、ノートルダム寺院に到着。
ノートルダム寺院にはブルボン王朝の王政復古に嫌気がさしナポレオンの復活を歓迎する国民が集まっていた。
そしてナポレオンは国民に答えるためバルコニーから


「余はフランスであり、フランスとは余だ!」


集まった国民は歓喜で盛り上がる。
労働者階級の血と汗のフランス革命でアンシャンレジームから脱却、憎きブルボン王朝から新しき指導者としてフランスを帝国に導いたナポレオン。

我欲と傲慢さで肥大した醜悪なブルボン王朝に復活されては嫌なのだ。


しかし、皇帝に復活したナポレオンも自室では

「私は王冠を盗んだのではない!見付けたのだ、ドブの中で。
そして拾い上げた、私の剣で
国民だ、国民がそれ(王冠)を私にのせたんだ!。」

と、大歓迎を受けときながらクーデターを国民に責任転嫁な考え方。

やっぱ皇帝にまで登り詰めると、クーデターだと言うのに傲岸不遜がなかなか抜けない。
この勘違い、間違いの元、な、嫌な予感を漂わす。

しかし、一時、気を高ぶらせても、胃潰瘍の病からか悲壮感がなんだか漂う場面がやたらと、このナポレオンには多い。




敵のイギリス側はアーサー・ウェルズリーことウェリントン卿。
クリストファー・プラマーが演じている。
この俳優が凄いのは現在90歳で尚、現役。「ナイブズアウト」に出演していたな。

くたびれたナポレオンとは逆に、ウェリントン卿は常にイギリス軍の名司令官として威風堂々としている。

ウェリントン卿というのは爵位で、本名はアーサー・ウェルズリーという。
ナポレオンの兄が国王になったスペイン独立戦争でナポレオンを苦しめている。そして勝利している。

現在も、この初代ウェリントン卿がワーテルローでナポレオンを破った栄誉で、爵位を継ぐ子孫がその栄光を受け継いでいる。
勝ち組ってやつですね。


ウェリントン卿はクーデターを起こしたナポレオンを征伐する為に対仏大同盟軍としてベルギーのブリュッセルに駐留、リッチモンド公爵夫人が主催する舞踏会に参加していた。

途中、明らかに疲れきった同盟国プロイセン軍人が侵入。

ウェリントン卿に緊急報告

「ナポレオンがベルギーのシャルルロワに進軍、国境を越えました。援軍を。」

シャルルロワか。」

知らせを聞いたウェリントン卿、いきなり憑いたようにトキメく(笑)。

この映画ではクリストファー・プラマーは金髪で、なぜか目張りを入れて、大きな端正な顔を更に目力アップしていて強烈。
まるで「ねらわれた学園」の峰岸徹のような(笑)。

シャルルロワか、さすがナポレオンだな。」
舞踏会を退席、指令室に。

シャルルロワはイギリス・オランダ連合軍とプロイセン軍の中間に位置し、どちらにも対応できる要所でナポレオンは、両軍が合流する前に各個撃破を狙ったのだ。

要所を占める、さすがはナポレオン。
ということだ。

ナポレオンは対仏大同盟が組まれた報告を聞くや敵の態勢が整う前に素早く行動を起こした。
ブリュッセルの南、シャルルロワ、ここだ。

それを阻止しようとした手薄なプロイセン軍を粉砕し占領。

リニーの戦い、と言われている。
要するにナポレオンの最後の勝ち戦だ。



そしてプロイセン軍のことは部下のグルーシー元帥に任せ、自分はウェリントン卿率いるイギリス軍に対抗する。
さて、ウェリントン卿はどこに布陣する?


ウェリントン卿の方は敵ナポレオンを迎え撃つ場所を


ワーテルローだ。」


この決定場面、まるで関ヶ原の戦いのようだな。



先にリニーの戦いで敗戦したプロイセン軍の司令官、老将ブリュッヘル元帥は負傷し退却してしまう。
映画では72歳とか言っていたが、老人将軍だった(汗)。
史実では代役にグナイゼナウ参謀長が一時、司令官に就任する。

グナイゼナウのさらに部下にカール・フォン・クラウゼヴィッツがいる。

クラウゼヴィッツは有名な「戦争論」の筆者。
ドイツ帝国参謀総長モルトケから第二次世界大戦ヒトラーに影響を与えている、プロイセン軍人としての思想が書かれた書物だ。多分、ワーテルローの実戦でのナポレオンも参考にしたろうな。
ちなみにプロイセンクラウゼヴィッツなら、日本は石原莞爾が「世界最終戦論」でナポレオンの研究を書いている。


やはりナポレオン一世の影響力は凄い。
日本なら織田信長だ。


ちなみにプロイセン軍人とか、プロイセンが強くなったのはアウステルリッツ三帝会戦で敗戦した神聖ローマ帝国が解体し、ドイツはライン同盟というナポレオンの属国に強制的に加盟させられた。プロイセン王国もイエナ・アウエルシュタットの戦いで敗れ同じく賠償金の支払い、領土割譲とポーランド分割領土を解かれたり、散々だった。
ポーランドワルシャワ公国として独立、ナポレオンのフランスの同盟国となった。「キング オブ キングス」ではポーランド美女の愛人に「ポーランドを独立国にして下さい。」と懇願され実現する、みたいな流れだったな(笑)。
プロイセンとしては屈辱で、それ以降、打倒ナポレオンと、政治家のシュタイン、ハルデンベルクが自由主義諸改革に努力した。
シュタイン、ハルデンベルクは徹底的な改革なしに救国の途はないとして、農奴制度を廃止し農民を解放。
土地売買の自由、職業選択の自由を制定。
営業の自由、軍制改革、行政機構の改革、教育改革など開明的な国土の復興と近代化に努めた。


まるで日本の明治維新みたいな。
しかし、これがナポレオンに睨まれてシュタインは失脚する。
だが、この近代化がプロイセンを秘めたる強国に変えていた。

軍制改革の面では、このグナイゼナウシャルンホルストが担当し、参謀本部を世界で最初に設立した。
シャルンホルストが主導して働き、初代、参謀総長に就任したが、1813年のライプツィヒの戦いでの怪我が元で亡くなった。だからワーテルローには参加していない。

参謀本部設立も、ナポレオンという天才を凡人が補うには組織力の強化、という発想で、そこはナポレオンの非凡な軍事能力から来ている。


原動力はナポレオンの才能とナポレオンのフランスに敗北した屈辱。


日本の明治維新も黒船来航で、西洋の文明にびびったからで、大きな改革には大きなショックが必要なんですな。


話を「ワーテルロー」に戻して、プロイセン軍の敗退でウェリントン卿自らワーテルローへ総司令官として布陣する。
現場のイギリス兵はスコットランド兵、アイルランド兵とイギリスならではの様式が違う兵士の集まり。
しかもベテラン兵の大半は米英戦争のため北米へ送っており、寄せ集めの訓練の無い若い連中ばかり、雑魚軍隊。
ナポレオンも敵が雑魚なのを分かっていて、少しなめていた。



しかし



ワーテルローの会戦前夜、どしゃ降りの大雨が降り、ナポレオン、ウェリントン卿それぞれが豪雨で不自由な中、なかなか眠れずに作戦を思い悩む。

大雨で道はぬかるみ、移動が困難になり、ナポレオンの得意技、大砲を上手く使えない。

フランス軍は移動困難でぬかるみが乾くのを待つことになり、その間にプロイセン軍の援軍がワーテルローに到着してしまうこととなる。



プロイセン軍担当のグルーシー元帥は?


プロイセン軍を追ってなんだかうろうろしていた、とか。(泣)


関ヶ原の戦い小早川秀秋は確信犯の裏切りだが、確信犯じゃなくとも、こんなマヌケ、グルーシー元帥が戦犯だよな。




冬将軍の冬が今年は極寒とか
たまたま霧が濃いとか
大雨が降ってぬかるみになった

とか、自然現象は運だ。

前夜が豪雨だったのはナポレオンには運が無かったということだな。

この映画ではフランス軍の大砲がやたらバンバンとウェリントン卿の側迄飛んで来て爆発してたが、何故かウェリントン卿はいつも無事でクールに姿勢良く騎乗していた。
もし、豪雨が無ければ大砲の調子も良くウェリントン卿に命中したのだろうか?とか思ってしまった。
とにかく火力の戦いだった。

ウェリントン卿は終始、姿勢良くクールな司令官だったが、ナポレオンは途中、引き離された我が子に会いたいと、たそがれたり、胃痛に襲われ部下に運ばれ休んだり、やたらと人間的だった。
ちなみにこの胃痛の休息中に部下のネイ元帥が暴走で無駄な騎馬隊突撃をやってしまった。


やはり、ナポレオン父さんがいなきゃ(泣)!


ボンダルチュクはソ連の監督ならではの、シニカルさ、例えばアレクサンドル・ソクーロフ監督は昭和天皇ヒトラーをコミカルにこき下ろした映画を創ったが、これと同じくアウステルリッツ会戦やロシア遠征でロシアに迷惑をかけたナポレオンをこき下ろしたくて、ロッド・スタイガーに良くも悪くも


“ダサい“ ナポレオン


を演じさせたのか。

もし、悪意だとしても、私は人間的な弱さを節々に見せるロッド・スタイガーのナポレオンに、愛着を感じたわ。

昔、流行った、たれパンダみたいなナポレオンに(笑)


ソ連の監督ならではの、シニカルな悪意なら、この映画の最後のセリフが凄い。
敗戦で終了した後の情けないナポレオンを
部下のネイ元帥が鬼の形相で見つめ



「プロメテウスのように鎖で岩につながれますぞ。」



と、ネイ元帥の心のささやきで終わる。



恐い。



プロメテウスってギリシャ神話の神で人類に天界の火を渡したが故にゼウスの逆鱗に触れ、岩に鎖でつながれ肝臓を鷲についばまれる刑にあった。
しかも神だから不死で肝臓が再生し、それが三万年続き、ヘラクレスにより、ようやく解放された。つう。


それがプロメテウスだ。


大砲(火)戦を得意としたナポレオンに、このセリフはソ連の監督ならではかな、と。