レザノフの文化露寇
ロシアの日本への正式な来航はアダム・ラクスマンの根室に続き12年後の1804年、長崎の出島に来航したニコライ・レザノフに続く。
レザノフは元々、露米会社という会社でラッコ、アザラシなどの毛皮などで商売していた。
既にアリューシャン列島からアラスカまでロシア領で、毛皮になる動物を捕獲し、儲けていた。
そして極東のオホーツク海、北方領土にも目を付けロシア皇帝アレクサンドル一世の親書で正式に通商を求め長崎に来航した。
しかし、かつてラクスマンに入港許可書を渡した老中松平定信は既に失脚。
話が通らず長崎で半年も待ちぼうけを喰らい、江戸幕府から鎖国を理由に薪、水、食料の提供もされないまま仕方なく長崎の出島を去った。
怒ったレザノフは2年後の1806年に部下のニコライ・フヴォストフに樺太、択捉島の松前藩と幕府の拠点を攻撃させた。
日本史では事件が文化三年、四年にあった元号から「文化露寇(ぶんかろこう)」と言う。
ロシア側は実行した部下の名前から「フヴォストフ事件」と呼んでいる。
しかし、この砲撃命令はアレクサンドル一世を越権したレザノフの独断専行で、レザノフはアレクサンドル一世から叱責され、長年の渡航生活もあってか文化露寇の翌年、42歳で亡くなった。
1806年あたりはロシアはナポレオン戦争の真っ最中だから、ナポレオンさえいなければロシアが本格的に侵略しにやって来たかな。
ナポレオンの影響は長崎の出島にもあり、唯一の貿易国オランダは一時、ナポレオンの弟が王位に就いたホラント王国となった。
よって1808年10月、イギリスの軍艦が長崎の出島をナポレオンのフランス帝国の飛び地と見なして、不法侵入し威嚇してきた。
イギリスの軍艦フェートン号がオランダ船を装い、長崎港に不法侵入し出島から出迎えたオランダ人を人質にした。仕方なく幕府はイギリスに薪、水、食料を渡して穏便に対応。イギリス軍艦はフランス傀儡のオランダに一発喰らわし補給も出来て満足したか帰国してくれた。
フェートン号事件に、おろおろと、とりあえず薪、水、食料を渡すしか能のない江戸幕府。
この時のおろおろ対応で、長崎の出島の責任者は切腹したらしいが、問題はそこじゃない。
この時の江戸幕府はヨーロッパの情勢をちゃんと分かってたのか?
ナポレオンなるヨーロッパを席巻した新興の皇帝の存在を分かっていたのか?
長崎の出島に居たシーボルトが帰国の際、1828年にシーボルト事件が起きているが、ヨーロッパにナポレオンなる新興の皇帝が存在した書物をシーボルトから幕府の天文方の学者、高橋景保(かげやす)が入手し、代わりにシーボルトへ伊能忠敬の作った日本地図を渡したことが、シーボルト事件の発端だ。
高橋景保はこのシーボルト事件で捕まり獄死、更に遺体を塩漬けにされ斬首という極刑を受けている。
天文方とは江戸幕府の最高シンクタンクで、出島のオランダ人や、その新聞、書物から情報を得られる天文方の学者の高橋景保は1826年に既にナポレオンの本「丙戌異聞(へいじゅついぶん)」を書いていた。
ワーテルローの戦いの本「別埒阿利安戦記(ベレアリアン戦記)」も書いていたという。
しかし、1826~1828年って、既にナポレオンはセントヘレナ島で死去した後でリアルタイムじゃないんだな。
または、1812年のゴローニン事件で松前藩から捕縛されたゴローニン、その部下のロシア人から、リアルタイムでナポレオンなる皇帝が居ることが伝わったともある。
1812年はまさにロシア遠征の年だ。
しかし、蝦夷地、松前藩の話で、長崎のオランダ人に真偽を聞いても、オランダがフランスの傀儡国になっている都合の悪さでとぼけ通し、幕府もとぼけられたまま理解せず終わったとか。
出島のオランダ商館長には幕府に「オランダ風説書」を提出する義務があったが、ナポレオンのことは都合が悪いから上手く濁したんだろうな。
シーボルト事件と言い、蛮社の獄と言い、開明的な高い知識を弾圧する、鎖国しか能の無い江戸幕府はダメだな。
鎖国の江戸幕府で国防を意識しだしたのは松平定信の一つ前の田沼意次。
田沼意次は側用人から老中になり、幕府の政治を手中にした初の人物。
やはり、田沼意次と言えば賄賂政治。
ゴージャスに取り巻きの商人から賄賂を貰っては、賄賂先の商人の都合の良い政策を行った。
賄賂からか幕府の財政を蝦夷地開発にも注ぎ込んだ。
蝦夷地とは今の北海道、樺太、千島列島。
その大部分にアイヌが住み、北海道西南のわずかな地が松前藩の所領地だった。
そして松前藩だけが幕府から公認でアイヌとの交易を許され利益を上げていた。
田沼意次の時代には既に蝦夷地近海にロシア商船があらわれては通商を求めていた。
1783年には仙台藩の医師、工藤平助が
「赤蝦夷風説考(あかえぞふうせつこう)」
でロシアの南下に対抗する国防を開拓する必要を解いていた。
赤蝦夷とはロシア人のこと。
田沼意次は、工藤平助の「赤蝦夷風説考(あかえぞふうせつこう)」の考えを理解し、正式に蝦夷地調査を決定。
その結果、蝦夷地は広大で肥沃な土地があり、開拓に向いているということがわかった。
賄賂政治のイメージが強い田沼意次が最近、見直されているが、金遣い荒い分、開明的な理解もあった。
しかし、松前藩は既にロシアと密貿易をしており、利益を幕府に問われると、いろいろと面倒。
この辺は薩摩藩の琉球、インド洋諸国との密貿易も一緒だな。
松前藩はアイヌに対して
「赤蝦夷については幕府の役人にしゃべるな。」
と脅していた。
田沼意次の蝦夷地調査は松前藩の隠蔽で成果は無く費用のみ嵩んだ。
田沼意次が失脚した後、対照的な保守的で質素堅実タイプの老中松平定信は、蝦夷地開発を中止。
蝦夷地開発計画は頓挫した。
そんな中にラクスマンがエカチェリーナ二世の遣日使節として漂流民、大黒屋光太夫を帰国させる建前、正式に根室に来航した。
ラクスマン惜しい(笑)。
ラクスマンが田沼意次の時世に来航してたら、日本にロシア文化が浸透、いや、ロシアに江戸末期から早々と北海道迄占領されただけか?
ロシアの日本来航は
ラクスマン
レザノフ
ゴローニン
プチャーチンと系譜される。
ロシアは更に惜しい事をしている。
レザノフの早死にが影響しているが、ラッコやアザラシの毛皮で利益を得ていた露米会社の拠点、アラスカに対して、ロシアより遠く離れたアラスカの維持に金がかかるだけと、レザノフの死により、アラスカ不要論が大きくなった。
レザノフは長崎から退去した後、スペイン領だったカリフォルニアのスペインと貿易の協定を組もうとしたが交渉中に亡くなり、アラスカ維持の補給などの援護の話が頓挫した。
他の競争相手はカナダのイギリスだが、イギリスとはクリミア戦争を起こす。
クリミア戦争でロシアは敗戦、疲弊し、アラスカを格安でアメリカに売ってしまうことになった。
アラスカの隣はクリミア戦争の敵国イギリス領カナダ。
カナダからアラスカに侵略されるよりはアメリカに売ってしまって、いくばくかでも金になった方がマシ、となったのだ。
しかし、アメリカにアラスカを売った途端、なんと金山が発見された。
この時のロシアの思いは(泣)。
レザノフは日本もアラスカも手放す結果となった訳だ。
第二次世界大戦末期。
1945年2月4日~11日に当時のソビエト領ヤルタで行われたヤルタ会談。
アメリカのルーズヴェルト大統領、イギリスのチャーチル首相、そしてソビエト連邦のスターリンの三人が参加。
スターリンは1943年11月25日の連合国の会談、カイロ会談は一応
「日本との日ソ中立条約がありますから。」
と、参加を断った。
しかし、今回は堂々と参加し、ルーズヴェルト大統領から対日参戦をお願いされた。
そう、ソ連の対日参戦はアメリカ側からの依頼なのだ。
だから、今、現在続く北方領土問題がややこしくなっている。
要はアメリカがロシアに
「火事場泥棒なんだから北方領土を日本に返しなさい!。」
と、自国から頼んだ以上、言えないのだ。
ここで140年前のレザノフの待ちぼうけの怨みが思い出される。
苦節140年、正々堂々とソ連は北方領土に侵攻し、あわや北海道も獲られる勢いだった。
ルーズヴェルト大統領とスターリンの約束では
北海道の北東半分迄獲っても良い
とのことだった。
しかし、ルーズヴェルトは癌に侵されてヤルタ会談の約2ヶ月後に死去。
共産主義のスパイ、コミンテルンに洗脳されていたルーズヴェルト大統領とは違いトルーマン大統領は、共産主義の脅威を既に懸念していた。
よってトルーマン大統領になった途端、ソ連の北海道侵攻はストップさせている。
だから、スターリンはルーズヴェルト大統領の次のトルーマン大統領のことを
「威厳も貫禄もない粗雑な小物が突如として大統領の地位を獲得したんだな。」
と、侮蔑し、途端にアメリカに対し不信感を抱くようになったらしい。
が、自分に都合の悪い人物だったら、そうなりますわな。
一説にはルーズヴェルトの癌は脳にも移転していて、ヤルタ会談の時はまともな思考回路じゃなかったと言われている。
お人好しにもスターリン(共産主義)に国土を与えようなんて、確かに正気の沙汰ではない。
暗殺説もある。
イギリスは賢く、日清戦争でロシアが三国干渉した時に、素早く日英同盟を締結したというのに、ルーズヴェルト大統領のヤルタ会談の癌に侵された脳ミソで、樺太、千島列島をくれてやってしまった。
2020年の今、まだ、北方領土はロシアのものだ。
ラッコは今や捕獲され過ぎ絶滅寸前。
北方領土のオホーツク海の昆布や蟹、シャケ、ニシン、ウニ、イクラなど日本人が大好きな海産物。
白人のロシア人は、昆布の出汁の旨味分かりません。
ロシアが北方領土の海産物を日本に高値で売って莫大な利益を得ている。
北方領土のロシア人には日本に暴利で海産物を輸出する水産マフィアみたいな連中もいるとか。
そして、北方領土のオホーツク海にはロシアの原子力潜水艦がうようよ潜航している。
いざとなったら沖縄の米軍基地まで日本海から一直線。
レザノフの願い叶ったり。
ロシア側からしたらレザノフの執念、アラスカの失望、晴らしたり、なんだろな。