アレクサンドル・ソクーロフ監督「モレク神」観賞

 

モレク神 [DVD]

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  • 発売日: 2010/11/27
  • メディア: DVD
 

 

アレクサンドル・ソクーロフ監督の「モレク神」観賞。


1942年、第二次世界大戦中のヒトラーエヴァ・ブラウンのベルヒテスガーデンの別荘でのとあるひとときを描いただけの内容。
ロシア映画だからハリウッド映画みたいな音楽やらアクションのケレンミ皆無の暗さ、静寂が逆に心地好い。

このソクーロフは恐れ多くも昭和天皇を描いた「太陽」の監督。
この「モレク神」「太陽」と「牡牛座 レーニンの肖像」「ファウスト」の4作品でソクーロフ監督の「権力の四部作」とか。
地味なロシア映画と思いきやソクーロフ監督の怖いもの知らずさはハリウッド映画の音楽やらアクション並みで
「太陽」では歴史に名高いマッカーサー昭和天皇との会談を


「まるで子供だな。」


と、ソクーロフ監督は昭和天皇マッカーサーにバカにされた描き方をした。
しかも護衛のアメリカ兵に


チャールズ・チャップリンみたいだぜ。」


とチャーリー、チャーリーからかわれながら無遠慮に記念写真を撮られまくる。
いくらロシアの巨匠ソクーロフでも昭和天皇をここまでバカにするのは、で、実際はマッカーサーにバカにされてたのか?(笑)

この「モレク神」も見事なくらいなロシア映画の個性、無機質でありながらハリウッド映画の音楽やアクション並みにファンタジーな設定(笑)
まず、ゲッベルス役の似方が良い。
ナチス 第三の男」のハイドリヒは細面な本物と対称的ながっちりした体格の役者だったが、モレク神のゲッベルスは本物同様にガリガリに痩せて背が低く片足を引きずっている。そして異様に声が高い。
去年観た「サスペリア」のティルダ・スウィントンの男役のような。
このゲッベルスの奇妙さだけでソクーロフは天才だと思えた(笑)不気味さ最高(笑)
ヒトラーの役者も似てたがゲッベルス程、味わいはない。

 

ベルヒテスガーデンのヒトラーエヴァの居る別荘にゲッベルス夫妻が遊びに来たとある数日を描いただけの内容だが、よくある俗物夫妻同士の交流で
この


”よくある”
”俗物さ”


が逆に暴力に感じてくる。
第二次世界大戦最中で、あの世界最狂の独裁者ヒトラー


”よくある”
”何でもない俗物”


ただの口の悪い中年のオッサンなんて
そして愛人のエヴァも見事にフツーの女。
エヴァは体操が多少上手だった人みたいで自慢の体操をやってみせる場面が何回かあるがこれも、フツーの女がまあ取り柄と言えば体操が多少上手い程度で、とエヴァのフツーの女っぷりを強調しているソクーロフ監督サスガ(笑)
ゲッベルスの嫁のマグダの方は美人で、登場した時、華があった。実際もエヴァ・ブラウンよりマグダ・ゲッベルスの方が美人なんだな。

そしてヒトラーの方も、ノルウェーは日照時間が少なく太陽が当たらないから精神異常者が多い、だの、チェコは蒙古の血が入ってるからヒゲの生え方が無様だ、だの、ソビエトは寒いから怠惰でアル中ばかり、だの、と侵略した国の民族に対する差別発言を居酒屋のオッサンの戯言レベルで発言する
よくある差別主義思想がある白人のオッサンと体操が多少上手いだけの女という、俗物カップルの何でもない一日。

しかし時は第二次世界大戦最中(笑)

 

「世界大戦の最高権力者」が「フツー」

 

という、暴力的な落差がハリウッド映画の音楽やアクション並みにファンタジー

ソクーロフ難解かな?この暴力、どっちかというと「あざとい」くらいに分かり易い。

エイゼンシュテインも富裕層と労働者階級の差異、善悪をあざといくらいハッキリさせて強調させてたけどロシア映画って暗いようで実は”あざとい”のだろうか。
革命の戦意高揚だもんね。
社会的な問題意義を暗喩しようという意思の強調。


世界最高の権力者もただの人間、と描く暴力が大変上手です。

 

「太陽」では木戸幸一がよく似てたけど、ソクーロフ監督の配役のセンスは天才。