チェンバレン首相の宥和政策支持者の小説、カズオ・イシグロ著「日の名残り」
イギリスのネヴィル・チェンバレン首相の宥和政策を調べていたらカズオ・イシグロの著書「日の名残り」という小説にその頃の情勢が詳しく書いてあると見付けた。
カズオ・イシグロは日系イギリス人だが、前、見付けたのは阿片商売で莫大な利益を出したジャーディン・マセソン社を糾弾する小説「わたしたちが孤児だったころ」。
英国の闇を突きつける作品を多数、書いているようだ。
第一次世界大戦の敗戦国ドイツに対するベルサイユ条約が過酷すぎるという考えはナチスドイツが台頭した当時、英国知識人からも多数意見があり、ドイツの戦後復興を助けて軍備も対等なものなら認めてもよいと考える風潮があったようだ。
要は、ナチスドイツを容認する、と、なる。
カズオ・イシグロの「日の名残り」は、当時のそのような考えを持つイギリス貴族が主人公の話で、戦後はナチス協力者として名誉を奪われる。というオチらしい。
これは「わたしたちが孤児だったころ」の阿片商売会社を糾弾する主人公の美しき母親の話とパターン一緒だな。
個人が正義感からこそ巨大組織を糾弾し、結果、巨大組織、時代の大波に覆され悲劇を被る。
「日の名残り」はアンソニー・ホプキンス主演で映画化されている。
歴史は後から振り返れば、たられば、言えるが、1930年代当時はナチスドイツがどこまで横暴を繰り返すか未知数だった。
共産主義、コミンテルンの脅威に対する用心もあったから、ソ連の厚い壁になってくれるドイツが多少、再軍備拡張してくれる方が都合が良かった、のもある。
ミュンヘン会談で話し合われた、ナチスドイツの要求する東欧チェコスロバキアのズデーテン地方の譲渡。
ドイツに食い込んだ地形でゲルマン民族も多数、居住している。
その代わり、ズデーテン地方以外のチェコスロバキアの領土は保証するというものだった。
この当時のチェンバレン首相の防共意識は実は正解。
逆なのがフランクリン・ルーズベルト大統領。スターリンを甘く見て後々、冷戦問題につながった。
ベルサイユ条約の過酷さはドイツ程の歴史ある欧州の帝国だった国に植民地並の暮らしになれ!という半ば非現実的な制裁だったのが逆にいけなかった。
「それはちょっとやりすぎだろ。」
「いくら何でも可哀想過ぎ。だからナチスの再軍備も多少なら許そう。防共の役に立つ。」
そういう世論がイギリスでもあったようだ。
しかし、ヒトラーは裏切り、ナチスに反発する民族運動鎮圧を理由にチェコスロバキアを解体し、傀儡化しチェコスロバキア全土を占領した。
チェコスロバキアには豊富な鉄鋼資源があり、やはりそれを狙って最初から裏切る気でいた。
ケネディ大統領の父親、ジョセフ・ケネディも当時、駐英アメリカ大使でロンドンに在住し、チェンバレン首相の宥和政策を支持していた。
松岡洋右の国際連盟脱退からの帰国じゃないが、チェンバレン首相もミュンヘン会談からの帰国後、英国民から熱狂的な祝福を受けたそうだ。
考え方からしたら、可哀想過ぎたドイツにズデーテン地方くらいあげたら防共の役に立つし、少しは落ち着いてくれて、ナチスもこっちには攻めて来まい、安泰安泰。
ただの駐英大使ならこの楽観視に飲まれるのは仕方ないが、ジョセフ・ケネディの場合、世界大恐慌を起こした張本人。
大恐慌がその後どうなるか?まで見通せないとは、楽観視過ぎたかな。