映画「黒い潮」と小説「日本の黒い霧」
1954年の日本映画「黒い潮」観賞。
内容は国鉄総裁が轢死体で発見された事件、下山事件をモデルにした新聞記者の話。
下山事件の現実は
東大法医学教室の古畑 教授の死後轢断(殺してからレールに乗せた)、他殺説
と
東京都監察医務院の八十島信之助 医師(ちなみに八十島医師は慶応大卒)と
慶應義塾大学医学部の中館 教授の
生体轢断(生きて自ら列車に轢かれた)、自殺説
で争っていたが迷宮入り。
で、このフィクションの映画も主人公の新聞記者の
自殺説
を、謎の大物勢力によりあやふやにされ、新聞記者は福岡に左遷されて終わる。
1954年の映画だが、松本清張の「日本の黒い霧」が1960年初版だから松本清張より6年前に下山事件を扱った映画となる。
この映画では他殺か自殺かで社説、世論が揺れる中、主人公の取材班は自殺説で新聞発表しようとする。
そして警察も
「正式に自殺の方向で発表する!」
と、自分達が正解だったと喜んだ翌日に
「警察が発表を取り止めました。」
で、主人公の新聞記者は急な福岡への左遷。
送迎会でむなしく黒田節を唄ってくれる同僚に
「なんで責任を負わなきゃならないの。」
と、涙してくれるお茶汲み女子社員。
しょんぼりする主人公。
で、終わる。
警察発表を止める事が出来る大きな勢力=GHQ
GHQは自殺ではなく、共産主義系の労働組合の連中の犯行にしたいのだ。
GHQは冷戦経過の都合上、日本の民主化の政策を急転する(逆コース)。
1945年から始めた占領で民主化し過ぎた社会主義的な改革を、改めなければならなくなった。
その為には、先にGHQ自ら改革で設定した労働組合の推奨により強大化した労働組合員が邪魔だった。
これを言ったのがこの映画の6年後、文藝春秋から出版された松本清張著
「日本の黒い霧」
今や松本清張のおかげで下山事件のGHQ犯行説?は、真偽はともかく誰でも知ることだが、この映画は謎の大物勢力が一体、何であるか匂わす事もせず、ただ急に警察発表中止で主人公は左遷、終わり。だった。
公開当時の1954年は、1951年に締結したサンフランシスコ講和条約で占領が解けて3年目。
朝鮮戦争が停戦調停して1年目だ。
当時としてはタブーをついた革新的な映画だったのか、既にGHQだろうけど言っちゃイカンだろ、な空気はあったのだろうな。
未だに下山事件の本は多数、出版されているが中でも松川事件の被告になった佐藤一さんの
「松本清張の陰謀―『日本の黒い霧』に仕組まれたもの」
では
「結局やっぱり自殺だったんじゃないか。」
と、本末転倒する。
佐藤一さんは、元、東芝の労働組合に所属していた松川事件の冤罪被害者(死刑判決を受け、後、無罪)だけあり、今や左派に寄った間違いだらけの「日本の黒い霧」に松本清張の共産主義、左派へ都合の良い方向への解釈が、影響力ある言論人として無責任だと、確信犯的な罪を厳しく突いている。
実は間違っていた松本清張を、無責任なレッテル張りと、共産主義犯行説をカモフラージュした害悪だったと言いたいのだろう。
リアルタイムで作家の大岡昇平も「日本の黒い霧」の感情的にGHQに責任転嫁しているのを糾弾している。
で、今や大岡昇平が当たりだった(笑)。
1960年って、まだ未知数の北朝鮮を共産主義が成功した国だと、左派が高らかに語ってた時代だもんなあ(笑)。今、思うとかなりヤバイ人達になる(笑)。
まあ、時期的に1960年1月に日米安全保障条約が締結され安保闘争が盛り上がった、左派に共産主義のスポンサーがいた、左派お祭り騒ぎだった時代。
中国は毛沢東の文化大革命が兆しを見せる、冷戦期に共産主義陣営が猛威をふるった時代だもんな。
で、安保闘争ブームの中、「日本の黒い霧」の1960年の初版は小説家がノンフィクションに鋭く斬り込む革新的な作品と見られたらしい。
政界の汚職、不祥事やプロ野球の八百長に“黒い霧“という言葉が使われた黒い霧ブームが起こった。
今だったら流行語大賞だな(笑)。
しかし、時が経過し、朝鮮戦争はソ連崩壊の時、公式記録が発表され、スターリンに許可を取った金日成の主導の元、北朝鮮から仕掛けたものだったと明らかになった。
GHQ陰謀の総仕上げと書いてしまった松本清張は大変な大間違いをベストセラーにしてしまったんだな(笑)×。
伊藤律のゾルゲ事件の発端ユダ説も、松本清張に特高のスパイだったと書かれたが、後、伊藤律さんが監禁された中国から帰国し、ゾルゲらとは無関係だった真相を話したりで間違い発覚×。
これは名誉毀損になり、伊藤律さんのご遺族から抗議があって、2013年から文藝春秋社は「日本の黒い霧」に、お詫びと訂正を記載して出版している。
ちなみに、今では、松本清張の方こそ日本共産党とのつながりで日本共産党の幹部を守る為、あえて伊藤律ユダ説を書いたんじゃないか?という逆疑惑も言われている(笑)。
野坂参三、宮本顕治とはズブズブで、既に真相はご存知だったでしょうに(笑)?
でも、しかし、占領期の猥雑感、暗黒感は松本清張先生にしか書けない。昭和の臭い。
松本清張先生はニューギニア島送り未遂(戦局の悪化で中止された)で、朝鮮半島で終戦した陸軍衛生兵上がり。
ニューギニア派兵だったら、第18軍所属か。アイタペの戦いで餓死かマラリア感染だな。
もしかしたら松本清張先生は戦死だったかも知れないな。平成の平和ボケした作家とは根性が違うわ。
そんな松本清張の醸し出す“雰囲気“に価値を見出だす
共産主義が猛威を奮った時代の
雰囲気小説
なんだと思う。